オタクの虚妄奇譚

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

阿部ちゃん先生

リモート授業ありがてえありがてえ…


阿部ちゃん先生の生徒になりたい。
阿部ちゃん先生に報われない片想いをしたい。



担任の阿部先生は、地味で冴えないけど授業は分かりやすい。
男子にはたまにいじられてて、女子には「パッとしないよね〜」と言われ、学年主任のおっさんからは「もっと生徒に厳しく!」と言われ、ちょっとかわいそう。
担当科目は物理。
クラスに40人いたら35人は多分物理に興味ないと思うし、私も無かったけど阿部先生の授業聞いてたら「分からない」が「分かる」に変わる。
そうなると、「興味ない」が「ちょっと楽しい」に変わってくる。

授業終わり、全員分のノート集めて職員室へ持っていく。

「先生、ノート」

「ん、ありがとう」

先生のデスクの上にはたくさん付箋の貼られた使い込まれた参考書。

「参考書使うの?」

「教えるには俺が知らないとね」

生徒の前での一人称は普段「先生」なのに「俺」なんて不意にいうもんだからちょっとドキッとする。

「○○さん最近授業ちゃんと聞いてくれてるね」

「前から聞いてたよ」

「ほんとに?笑」

もっさりした前髪となんとも言えないダサさの眼鏡の奥の目が優しく細くなる。

「次始まるからもう行きな」

そう促され職員室を後にしようとすると、ちょっと待って、と苺味の飴ちゃんくれる。

「ノート、1人で重かったでしょ?ご褒美」

その飴は、甘くてちょっと酸っぱい。
恋心なのかな…


その日からちょっと先生のこと意識しちゃう。
授業中、きちんと一人一人の目を見るように話してたり
理解してるかどうか反応伺ってたり
当てて正解したらすごく褒めてたり
実は背高いよなぁとか
実はスタイルいいよなぁとか
チョークホルダーを握る手が綺麗だとか
いろんなことに気づき始める。

マブダチの慎太郎に
「阿部先生って彼女いると思う?」
と聞くと

「えっ、先生のこと好きなの?」

「いや、、そういうわけじゃ…」

「彼女いるか気になるんでしょ?
好きじゃなきゃ気にならないんじゃね?」

「そういうもの?」

「そういうもの」

そんなことを言われて余計に気になり始める。
休み時間とか放課後に、先生に授業の質問に行くから成績もグイグイ上がる。

「最近どうしたの?すごいやる気だね」

「だめ?」

「ううん、いいことだよ」

「物理苦手だったんだけど、最近楽しいなって思えるようになってきたよ」

「本当に?嬉しいなぁ、教師冥利に尽きます」

ニコニコ笑いながら優しく答える阿部先生を見てドキがムネムネするのさ!(古い)
ギャルちゃんとか、やんちゃな男子たちは「阿部ちゃん」って呼んでるけど私は「阿部先生」ってちゃんと呼ぶ☺️
阿部ちゃんっていっつも呼ばれるからなんか新鮮だな
って「先生」らしからぬことを言いながら頭をかきかき。
kawaii


夏休みさみし〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
先生会えな〜い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


40日間、物理の勉強をするたびに先生を思い出す。
何してるかなー、先生たちって夏休みも忙しいのかなーって。
私は私で、慎太郎とBBQしたり、樹兄ちゃんに海連れてってもらったり、年上の幼馴染北斗くんに勉強教えてもらったり、中学の時の後輩ラウールくんと夜のコンビニであってガリガリ君食べながら駄弁ったり。
それなりに楽しい、だけどどこかパッとしない夏を過ごす。(このメンツ集めといてパッとしないとかいうクソ贅沢女)

夏休み明け、予鈴が鳴りHRのため教室へ入ってきた先生を見てみんながざわつく。
バリ垢抜けとるやんけ…
えっ、誰?
あのもっさり髪の毛と絶妙にダサい眼鏡とサイズが合わないスーツの阿部先生はいずこ…?
何そのジャストサイズの黒スーツ、9月やぞ。
何その遊ばせた毛先、学校やぞ。
ご覧いただきましょう、BeforeAfter
なんなん…好きやぞ。

「絶対女じゃん…」
「卒業した?」
「変わりすぎじゃない?」
「えっ、意外とイケメン…?」

とざわざわ。
阿部先生を取り囲む女子たちを遠くから見て一抹の寂しさを覚えちゃう。
先生のところへ行けないまま1週間が過ぎる。
放課後、図書室に1人残って音楽を聴きながら勉強してる。

あせらなくていいさ 一歩ずつ僕の傍においで
そしていつか僕と 真直ぐに

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阿部先生ミスチル好きだからね☺️


ボーッと手が進まないまま校庭を眺めてると、声をかけられる。
そこにいるのは阿部先生。
イヤホンを外すと

「何聴いてたの?」

ミスチル

ミスチル俺も好きだよ」

知ってるよー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!先生が好きだって言ってたから聴いてたんだよー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
向かいに座った先生は続けます。

「なんか久しぶりだね」

「毎日学校で会ってるよ」

「最近あんまり聞きに来てくれないじゃん」

「だって先生忙しそうだもん、女の子たちに囲まれて」

「あぁ、なんか最近みんな色々聞いてくるねぇ」

「みんな言ってたよ、先生かっこよくなったって」

「本当?嬉しいなぁ
俺はちょっと恥ずかしかったんだけどね」

「彼女の趣味?」

「うん、前から言われてたんだけどね
その眼鏡どうにかしろーとか笑
いきなり変わるのって恥ずかしいよね」

照れくさそうに、でも幸せそうに語る先生を見てギュっと胸が痛くなる。

「いいじゃん、モテモテで」

「勉強に繋がってくれると嬉しいんだけどね」

私のノートを身を乗り出すように覗き込む先生。
伏せた目元のまつげや、遊んじゃってる髪を改めて近くで見て泣きたいような、でも泣けない、そんな複雑な気持ちになる。

「分かんないとこある?」

「んー、こことか」

「あー、ここはね…」

分かりやすく説明する声は優しくて穏やかだけど、きっと彼女への声はもっと優しいんだろうなとか思っちゃう。

「聞いてる?」

「ねぇ先生、お仕事は?いいの?
学年主任にまた怒られちゃうよ」

「まぁ大丈夫だよ
○○さんと久しぶりに話したかったしね」


私に!会いに!来たんですか!!!!!
結婚しましょうね!!!!!!!!!!!!!!!!!!




「彼女、どんな人?」

「えー?そうだなぁ、可愛い人だよ」

そうだなぁ、のあとちょっと思い出し笑いするんですよ。
この「可愛い」にはちょっとドジなところとかちょっとおバカなところとか、そういう「可愛い」も含まれてて思い出してつい笑っちゃうの。
学校やぞ、のろけんな😠

「どうやって出会ったの?」

「大学の同級生」

「長いんだ」

「5年くらいかな」

5年間の中に閉じ込めた、彼女しか知らない阿部先生を知りたくなる。

「○○さんは?慎太郎とどうなの?」

「え、なんで慎太郎?」

「付き合ってるんじゃないの?」

「友達、慎太郎他校に彼女いるし」

「そうなんだ、付き合ってるのかと思ってた」

阿部先生って普通に生徒と恋話しそう。
佐久間先生、しょぴ先生もしそう。
深澤先生、目黒先生ははぐらかしそう。
じーこ先生は興味津々。
宮舘先生と岩本先生は想像つかなくて噂されてそう。
5時過ぎ、図書室の閉まる時間。

「そろそろ帰ろうか」

まだ明るくて、だけど少しオレンジの西日の差し込む席で先生と目を合わせたい。

「遠慮しなくていいから、分かんないとこあったらいつでもおいで」

図書室の前で先生とバイバイします。
2人きりの時間を過ごせた嬉しさと、彼女いるんだーっていうちょっとした喪失感と、先生のことすごく好きだなっていう気持ちでぐるぐるしながら帰る。

そばにいたいのに 強く手を握ってたいのに
あなたは近くて遠い人 悔しかった
初めて感じたこの気持ち 胸がつぶれそう

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頻度は減るけどたまに職員室へ行く。
阿部先生に会いに。
成績が上がったことで、自分の進路に新しい可能性が加わる。

「将来なりたいものとかあるの?」

「ううん、まだ迷ってる」

「いっぱい悩みなね
悩んで迷って、大人になっていけばいいよ」

先生はきっと、いろんな生徒の相談事をきちんと聞く。
きちんと耳と心を傾けてくれる。
焦らなくていいんだってことを、焦燥感だらけの思春期にきちんと教えてくれる人。
そんな大人って、案外いないと思う。
「大人になっていけばいい」
大人の阿部先生と子供の私。
その差が埋まることは永遠にない。
つれェ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

阿部先生はコンプライアンスごり守り芸人なので生徒に手を出すなんて1億%ないし、生徒と教師の線引きはきっちりしてる。
だから踏み込んでくることも、踏み込む勇気もないまま
「いい先生」と「勉強熱心な生徒」のままただ時間が流れる。

学年変わっても、阿部先生が担任のまま持ち上がるのでいつまでもちょっとしたモヤモヤと、ズキズキを抱えたまんま。

阿部先生はいつの間にか、髪もちょっともっさりだし、着慣れたダボスーツに戻ってる。
元々ブルーライトカットの眼鏡だったから、早い段階で眼鏡に戻ってるのも推せる。

進路を考える時期になって

「先生はなんで先生になったの?」

と放課後、勉強教えてもらいながら先生に聞く。

「教えることが好きとか、物理が好きとか、そんな理由だったと思うよ
昔から先生になりたかったからなぁ」

「夢が叶ったんだね」

「そうだね、だから今すごく楽しいよ」

目を見てそう言ってくれる先生に勘違いをしそうになる。
罪作りな男やでしかし…



告白もアプローチも何もしないまま、私は卒業する。
卒業式ではみんな大号泣する中、一人一人にお手紙書いてきてくれる。
みんな大好き阿部ちゃん先生( ; ; )
「物理に興味のなさそうだった君が、いつの間にかしっかり授業を聞いて、たくさん質問しにきてくれて、本当に嬉しかったです
僕に教師としての自信をくれてありがとう」
とか書いてるんだよ。
物理も好きになったけど、物理以上に先生が好きなんだよ。
いつまでも言えないけど。





大学4年生、地元を離れてるので久しぶりに帰省して、1人で散歩してたら偶然先生に会う。

「○○さん?」

「阿部先生!」

「久しぶりだね」

そう笑う先生の笑顔は4年前のあの頃のままで、ただ一つ違うのは先生の左手の薬指だけ。

「先生結婚したの?」

「ん?あぁ、2年前にね」

「あの頃私たちをざわつかせた彼女さん?」

「そうそう笑
懐かしいね」

少し立ち話をして不意に先生が

「綺麗になったね」

なんで言ってくる。
下心とかじゃなくて、久しぶりに会った親戚がいう感じで。
髪も染めて、メイクもして、服の好みも少し変わって、あの頃の私よりきっと「大人」になれたけど、先生には近づけないまま。
結婚しちゃった先生には、もう思い出になってくれた「好き」すら一生伝えられない。

「先生」

「ん?」

「先生のおかげで勉強楽しくなりました
先生のおかげで自分の進路に新しい選択肢ができました
あの頃言えなくてごめんなさい
本当にありがとうございました」

深々と頭を下げて言えば先生は目を見開いて驚いて

「こちらこそ、ありがとう
○○さんのおかげで教師になってよかったって思えたよ」

じゃあまたいつか、と別れる。
いつでも連絡してねって言ってくれる。



その日の夜は、樹兄ちゃんとリビングの窓際で飲みながら、すごく好きだったことを話し込んじゃうし
大学2年の時から付き合い始めたゆうぴーとビデオ通話するとき「好きだよ」って珍しく言っちゃう。
「好き」って言っていい相手に言えるのって、特別なことなんだと気づく。

言えた「好き」より言えなかった「好き」の方が心に残るよね。
阿部先生はきっとずっと、私の中から消えてくれない。






きみはかわいい
とてもかわいい
どうか幸せであってほしい
きみはかわいい
とてもかわいい
僕ではとても愛せない

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